| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-061

航空写真からみる八甲田山の植生変化:過去30年間で何が変わったか

*嶋崎仁哉, 佐々木雄大, 神山千穂, 片渕正紀, 彦坂幸毅, 中静透(東北大・院・生命科学)

目的:長期にわたる森林動態の研究は、年輪年代学や花粉分析、森林限界での研究が多く、種の分布域内全体にわたって広域的に研究した例は少ない。本研究では、実際に進行中の気候変動が森林動態に与える影響について、高解像度空中写真を使って広域的に評価する。

方法:過去30年間でオオシラビソの個体群と樹冠の高さがどのように変化したかを1967年と2003年に撮影された高解像度空中写真をもとに解析した。712プロット (25m × 25m) でのデータをもとに、どのような環境要因(6つの地形変数と2つの生物的変数)がオオシラビソの変化を説明するのかを解析した。

結果:オオシラビソの個体数は、標高1000 m以下で減少する一方、1300 m以上では増加した。個体数は湿原周辺でも増加し、これは湿原周辺であれば標高の低い場所であっても、オオシラビソの生息域となりうることを示唆する。しかし、樹冠の成長速度は湿原周辺と南東斜面で他の環境よりも遅かった。

結論:分布域内でオオシラビソの個体群の分布シフト (population shifts) が示唆された。これは部分的に気候変動の影響であると考えられる。低標高に位置する湿原周辺のオオシラビソは最終氷期からの残存林 (remnant) ではなく、むしろ個体数が増加していた。これは湿原周辺が潜在レフュージアとなりうることを示唆する。一方で、湿原周辺のオオシラビソは遅い成長速度を示した。潜在レフュージアが種の成長にとって必ずしも好適ではないということは特筆すべき点である。


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