| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-090

阿蘇地方の草原性絶滅危惧植物マツモトセンノウの繁殖生態

*安部哲人(森林総研・九州), 横川昌史(京都大・農), 井鷺裕司(京都大・農)

マツモトセンノウ Silene sieboldii (ナデシコ科)は中国東北部から朝鮮半島,日本にかけて分布する草原性の多年生草本である.氷河期に分布を広げた大陸系遺存種とされ,国内での自生地は熊本県阿蘇地方のみである.自生地である半自然草原は管理労力の不足や土地利用の変化により年々面積が減少し,個体群の分断が進行していることから,レッドリストの絶滅危惧Ⅱ類(VU)に指定されている.このように減少過程にある孤立個体群では直接要因である自生地の消失以外にも,繁殖成功度の低下や近親交配の増加による近交弱勢の発現といった要因が,間接的に個体群の衰退を加速させる可能性が指摘されている.そこでマツモトセンノウの繁殖の現状を明らかにするために2009年,2010年に4個体群で送粉・結実を調査した.マツモトセンノウの花にはマルハナバチや小型のハナバチ,チョウ,ハエなどの訪花が見られた.花の形態からはスズメガなど大型の鱗翅目昆虫が有効な送粉者になると予想されたが,これらの訪花は稀であった.訪花頻度の高さや花のサイズを考慮すると阿蘇の自生地における主要な送粉者はマルハナバチであると考えられた.調査した4個体群のうち,草丈が低い管理された半自然草原の2個体群ではマルハナバチの訪花頻度が高く,結果率も高かった.一方,ススキ丈が高い草地や植林地化された個体群ではマルハナバチがほとんど見られず,結果率や花当たりの種子数も低かった.マルハナバチの訪花は周辺開花個体数や周辺開花種数が多いほど増える傾向があった.これらの結果から,適切に管理されている種多様性が高い半自然草原ほど繁殖成功率が高く,一方で管理放棄された草地や植林地に転換された自生地では繁殖ステージでも不利になっていることが明らかになった.


日本生態学会