| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-129

窒素降下物量増加とモンゴル草原の生産力

*衣笠利彦(鳥取大・農), 篠田雅人, 恒川篤史(鳥取大・乾燥地研)

化石燃料の消費や化学肥料の合成、使用の増大にともない、窒素化合物の大気放出量および地上への降下量が増加している。窒素降下量の増加は植物群集の生産量を増大させるとともに、種多様性を低下させる可能性が指摘されている。モンゴル草原では伝統的な遊牧が行われているが、窒素降下量増加は草原の生産力の変化を通し遊牧活動に影響を及ぼすかも知れない。そこでモンゴル草原において人工的な窒素負荷処理を行い、草原の生産量および種多様性に与える影響を調べた。

2006〜2010年の4年間にわたり継続的な窒素負荷処理を行った。調査地周辺で2050年までに予測されている年間窒素降下量の増加およびその5倍、25倍に相当する窒素量を毎年散布し、各種の出現数と地上部重量を調べた。家畜による採食の影響を排除するため、牧柵で囲った禁牧区を設けた。

2006〜2007年は干ばつ年であり、草原の生産量が少なく一年草がほとんどみられなかった。2008年以降は平年以上の降水量がみられ、一年草が大きく増加し草原の生産量と種数が増加した。柵内では2009年以降、一年草の種数と生産量が減少した。窒素負荷による草原生産量の増加は2009年以降に見られたが、2050年までに予測されている窒素降下量増加では有意な増加は検出されなかった。草原生産量の増加は、柵外では主に一年草Salsola collinaの個体サイズ、柵内では多年草Artemisia adamsiiの地上部数の増加によっていた。種数には窒素負荷の影響はみられなかった。

以上から、モンゴル草原の生産量は窒素降下量増加によって増加することが示された。ただし今後40年間に予測されている程度の窒素降下量増加では、生産量の変化は小さく検出は難しいだろう。窒素降下量増加は、家畜の嗜好性が低いA. adamsiiの拡大を促進し、草原の牧草地としての質を低下させるかもしれない。


日本生態学会