| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-134

Sub-consumptive effect: 手負いのカタツムリは治癒のために餌の選好性を変える

細 将貴(東北大・生命科学)

捕食者や寄生者は,死亡による個体数の減少という直接的な効果と,捕食リスクによる形質の変化という間接的な効果のふたつを通して,被食者の生態系機能を変えることがある。しかし,植物では注目されているものの,部分的な捕食による形質の変化という効果を動物で考慮した事例はほとんどない。そこで本発表では,植食者あるいは分解者としての機能を持つカタツムリが,部分的な捕食を受けることによって食性を変えることを報告する。イッシキマイマイは琉球列島の石垣島と西表島に分布するカタツムリである。カタツムリ専食性のイワサキセダカヘビから捕食を受けると,軟体部(足)を自切して捕食から頻繁に逃れることができる。飼育実験の結果,足を失った個体は,殻の成長を止め,軟体部の再生に資源を投資するようになることがわかった。一般にカタツムリの成長を律速するのは殻の成長であり,その成長速度は炭酸カルシウムの摂取量が決めている。そのため軟体部を再生している最中の個体は,炭酸カルシウムを選択的に摂取する必要がなく,食性を変えることが予測される。そして実験の結果はこの予測を支持した。イッシキマイマイのように外傷等のダメージを治す能力は,ほとんどの生物に備わっている。このことは,捕食者や寄生者から非致死的だが直接的なダメージを受けることは極めて頻繁に起きていることを示唆する。部分的な捕食の結果として生じる被食者の形質変化は,生態系機能全般において無視することのできない効果を持つのかもしれない。


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