| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-182

カクツツトビケラ属2種の呼吸特性

*渡辺昌造(兵庫県立大院・環境人間),三橋弘宗(兵庫県立大/人と自然の博物館)

水生昆虫の分布は、物理環境要因や地形、種間相互作用が関係するが、こうした環境応答は生理的な特性によって規定される場合が多い。河川の水生昆虫の場合には、近縁種間で生息場所や流程分布が異なる場合は呼吸特性の違いが関係していると考えられているが、未だ実証的な研究は少ない。本研究では携巣性トビケラの巣の形態が異なる同属2種の呼吸特性と分布について比較する。植物遺骸を巣に利用するカクツツトビケラ属のオオカクツツトビケラと巣の形態が異なるコカクツツトビケラ(近縁種を含む)を対象として、兵庫県六甲山系における両種の分布と生息場所、水温および溶存酸素量を調査した。また、呼吸速度と呼吸行動としての腹部波打ち運動について、さまざまな溶存酸素濃度下で行動観察した。両種ともに、六甲山の低標高から高標高まで広く分布しているが、河川規模を示す流域面積の上限に差がみられ、オオカクツツトビケラでは流域面積2.3km2以下の細流に限られた。こうした源流部の細流は夏期の渇水等により溶存酸素濃度が飽和の50%まで低下する傾向にあった。オオカクツツトビケラの呼吸速度は酸素濃度が飽和の30%以上では変化がみられず 、一方でコカクツツトビケラは酸素濃度に対応して呼吸速度が大きくなった。呼吸のための腹部波打ち運動はオオカクツツトビケラが酸素濃度の飽和の40%以上では運動回数を変化させないのに対して、同属種は運動回数を減少させた。オオカクツツトビケラの基礎代謝および呼吸運動は環境の変化に対して恒常性を持っており、低酸素環境となる生息場所において適応できる可能性が示唆された。


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