| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-255

ウミネコにおける餌環境に関連したストレス反応

*富田直樹,新妻靖章(名城大学農学部)

海鳥類は海洋生態系の高次消費動物であり,その繁殖成績や行動は生息地周辺海域の海洋環境変動をモニタリングする指標として利用されている.また,繁殖期中の餌資源量の減少は,鳥類の生理的ストレスを生み出し,コルチコステロンを分泌することで餌の量や質の変化に反応することが知られている.したがって,コルチコステロンの変動を把握することが,海洋の餌資源の変動の簡易的な指標としての可能性が示唆されている.そこで本研究は,沿岸域で繁殖するウミネコのコルチコステロンを用いたストレス評価と,安定同位体比を用いた餌生物の栄養段階の特定を行い,餌生物に関連したストレス反応の影響を調べた.調査は,2009年に青森県八戸市蕪島のウミネコ繁殖地で行った.抱卵中のウミネコ成鳥の捕獲・採血を行い(♂:N=82,♀:N=86),血漿中のベースラインコルチコステロン濃度と安定同位体比をそれぞれ分析した.さらに外部計測値からボディコンディションを測定し,コルチコステロン濃度の変動に影響する要因を検討した.ウミネコ成鳥の血中コルチコステロン濃度は,0.39ng/mlから6.34ng/mlの間で変動した.また,窒素および炭素の安定同位体比は,それぞれ9.23‰から14.61‰,および-24.98‰から-17.82‰の間で変動した.コルチコステロン濃度と安定同位体比のどちらとも雌雄間で有意な差はなかった.したがって,蕪島のウミネコは,幅広い栄養段階の餌資源を利用し,個体間で異なるストレス環境にさらされていると考えられた.また,雌において,窒素安定同位体比が高いほどコルチコステロン濃度は有意に低くなった.ただし,コルチコステロン濃度とボディコンディションとの間に相関関係はなかった.雌において,栄養段階の低い餌資源に依存する個体ほど強い生理的ストレスにさらされていることが示唆された.


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