| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-015

珪藻Cyclotella meneghinianaにおける性比調節と細胞密度の効果

*城川祐香(東大•理), 若本祐一(東大•複雑系), 嶋田正和(東大•広域)

周囲の個体の存在は、有性生殖の際に不可欠である。周囲の個体の数や血縁度によって性比を変える例は、多細胞生物で数多く研究されてきた。しかしクローナルな単細胞生物が、周囲の個体の数に応じて分化する性を変えられるか否かを、個々の個体の分化過程を追跡して示した研究例はまだない。そこでクローン細胞内で卵と精子両方に分化可能な単細胞生物である中心珪藻を用いて検証した。

珪藻では一つの栄養細胞は1つの卵、もしくは数個の精子のどちらかに分化する。先行研究では、集団レベルの実験から細胞サイズが大きいと卵に、小さいと精子に分化すると考えられてきた。しかし個々の細胞サイズと分化運命の関係が対応づけられていないため、実際に個々の細胞が厳密に細胞サイズに従った分化をしているのか、細胞サイズの影響をうけつつも可塑的に、細胞密度といった状況に応じた性比調節が可能か不明であった。

微小な単細胞生物を1細胞ごとに追跡するために、微細加工技術によりカバースライド上に約100μm四方のマイクロチャンバーを作成し、部屋ごとに細胞を閉じ込めた状態で、顕微鏡下での有性生殖誘発とその1細胞観察に成功した。その際、顕微鏡下で還流する培地の塩濃度を上昇させることで有性生殖誘発可能な、広塩性中心珪藻Cyclotella meneghinianaを実験材料とした。

卵細胞に分化した細胞の容積と精細胞に分化した細胞の容積の分布の多くが重なり合っていることから、同様の細胞サイズであっても、どちらの性にも分化しうる運命決定の可塑性があることがわかった。次に細胞密度によって可塑的に分化する性を調節できるか検証した。その結果、チャンバー内の細胞密度が増加すると、卵細胞に分化する割合が、精子細胞に比べて相対的に増加することが明らかになった。受精成功を高めるという適応的な観点からの議論を行いたい。


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