| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-202

栄養卵が進化する理由と、普遍的でない理由

*鈴木紀之,川津一隆(京大院・昆虫生態),大澤直哉(京大院・森林生態)

母親から子への栄養卵の供給は、昆虫、陸貝、両生類などさまざまな分類群にみられる投資戦略である。ただし、栄養卵を採用している種はごく限られているので、動物において普遍的な戦略とはいえない。本研究では、環境の異質性、環境の信頼性、栄養卵のコストに着目して、栄養卵が進化する条件を理論的に調べた。その結果から、なぜ栄養卵が普遍的な戦略にならないのかを考察する。

卵サイズを可塑的に調整できない状況において、「大卵少産」戦略と「小卵+栄養卵」戦略を採用する母親の適応度を比較した。まず、子の生存にとっての環境に異質性があるとき、栄養卵戦略のほうが適応的であることが示された。「大卵少産」戦略では環境の異質性に柔軟に対応できず、投資に無駄が出てしまうと考えられる。次に、母親が少しでも環境の質を評価し投資戦略に反映させることができれば、栄養卵戦略が進化することが示された。しかし、栄養卵のコスト(栄養卵へ投資された資源量のうちの何割かが子に消費されないこと)に対しては、栄養卵戦略は脆弱であることも示された。

実際に栄養卵を採用している種では、環境の質が時空間的に変動し、母親はそれをさまざまなキューを用いて評価し栄養卵の供給量に反映させている。したがって、本研究の理論的な予測は、野外でみられる栄養卵戦略の状況とよく一致していると考えられる。その一方で、栄養卵では卵殻が消費されなかったり、兄弟間で消費量のばらつきが生じるなど、必然的な無駄がつきまとう。これらのコストが、栄養卵が多様な分類群で進化したにもかかわらず、普遍的な戦略とはならない理由であると予想される。


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