| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-214

マアジ稚魚における観察学習能力の個体発生

*高橋宏司,益田玲爾,山下洋

動物は、進化的な制約を受けつつも、その生活環境に適した学習能力を多少なりとも備えることが予想される。近年、数種の海産魚において、学習能力が発育段階に応じて変化することが報告されており、こうした学習能力の変化は、生活史における生活環境の変化に対応すると考えられている。発表者はこれまでに、海産魚マアジTrachurus japonicusの学習能力が生活環境の移行期に急激に向上することを示した。本種は稚魚期の初期に群れを形成してから、生涯群れ行動に依存した生活を送る。本種の稚魚は他個体の行動を観察することにより学習効率が向上することもすでに示した。本研究では、群れ行動が発達する時期のマアジ稚魚を用いて、観察学習能力の個体発生過程を検討した。

実験魚は4尾を一群とし、体長15mmおよび35mmの稚魚各8群を用いた。学習課題として、エアレーションの停止と餌とを条件付ける報酬訓練を施し、観察群および非観察群の学習速度をサイズ間で比較した。観察群には、訓練開始前に学習達成個体の学習行動を5試行観察させた。訓練は1日に10試行とし、エアレーション停止前後での餌場に集まる個体数の増加を指標として学習能力を評価した。また、両サイズの稚魚における群れ行動を定量的に測るため、個体間距離および頭位交角を求めた。

その結果、15mmの稚魚においては、観察群と非観察群で餌場に集まる個体数に差はなく、観察による学習効率の向上は見られなかった。一方、35mmの稚魚では、非観察群に比べて観察群では餌場に集まる個体が有意に多く、観察学習の効果が示された。群れ行動に関しては、15mmに比べて35mmの稚魚は群れ形成の傾向が強かった。本種の生活史戦略として、群れ行動の発達と同調して観察学習能力が発現する可能性が示唆された。


日本生態学会