| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-286

養菌性キクイムシの性決定/交配様式がボルバキア感染を決める

*河崎祐樹,梶村 恒 (名古屋大院・生命農)

生物の雌雄が決定される様式として代表的なものは、性染色体がホモ接合するかヘテロ接合するかによって決まる「倍数性」である。ところが、昆虫などの一部では、卵が受精するかどうかによって雌雄が決定する「単数倍数性」の種も存在する。この性決定様式は、産卵時に受精をコントロールすることで雌雄の産み分けができるため、同系交配で局所的配偶競争が強い場合に有利となる。単数倍数性が進化する要因の一つとして、細胞内共生細菌による繁殖操作の影響が挙げられている。

細胞内共生細菌ボルバキアは、オス殺しや細胞質不和合性などを引き起こすため、宿主昆虫の性比がメスに偏ったり、卵の孵化率が低下したりする。このような繁殖操作が宿主の性決定様式を進化させるきっかけとなる一方、逆方向の作用も生じる可能性がある。すなわち、性決定様式や交配様式が異なれば、その影響が変化するかもしれない。

キクイムシ亜科(甲虫目:ゾウムシ科)は、倍数性/ランダム交配の種も単数倍数性/同系交配の種も含む森林性昆虫である。単数倍数性の進化は一度、起こったと考えられている。もし、キクイムシにおいて単数倍数性が進化したきっかけがボルバキアであるなら、共種分化が見られるだろう。そこで本研究では、養菌性のキクイムシ亜科14種を用いて、性決定様式/交配様式とボルバキア感染の関係を明らかとすることを目的とした。

ボルバキアに感染している種の多くは単数倍数性であった。分子系統解析によって、3系統のボルバキアを確認できた。キクイムシの分子系統解析も行ったところ、単数倍数性の起源は1回であった。しかし、キクイムシとボルバキアの系統関係に対応は見られず、共種分化した証拠はなかった。すなわち、キクイムシの単数倍数性はボルバキアの感染によるものではなく、それぞれのキクイムシはボルバキアを水平的に獲得したことが示唆された。


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