| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-317

ヨーロッパナラの冬芽における遺伝子発現の変化

*上野真義(森林総研),Gregoire Le Provost,Christophe Klopp,Celine Noirot,Antoine Kremer,Christophe Plomion(INRA)

冬芽の休眠が解除され新芽が展葉するタイミング(展葉フェノロジー)は個体の適応度に影響を与える重要な形質である。展葉が早過ぎると晩霜の被害を受けるリスクがある一方、展葉が遅過ぎる場合は生育期間が短くなり生長に不利となるためである。休眠には生育に好適な条件を与えても休眠を続ける自発休眠と、生育に適当な条件になると生育を開始できる他発休眠とがある。秋に形成された冬芽は自発休眠の状態にあるが、春先に他発休眠に移行することで環境条件に応じて展葉できるようになる。本研究ではヨーロッパに生育するナラ(Quercus petraea (Matt.) Liebl.)を対象として、自発休眠から他発休眠への移行に対応して、どのような遺伝子の発現量が上昇するのかを明らかにした。材料はフランス北部の2つの自然集団から種子を収集し発芽した実生を用いた。自発休眠と他発休眠の状態にある実生の頂芽からmRNAを抽出し超高速シーケンサーによって配列決定を行ない、各遺伝子に対応する配列の本数を発現量として解析した。総計で約35万本の配列を解析した結果、約4万個の遺伝子(コンティグ)が検出された。これらの遺伝子の中から37個と36個の遺伝子が自発休眠と他発休眠とで発現量に違いがあると考えられた。既知のタンパク質との相同性検索の結果、他発休眠において発現量の増大する遺伝子の主なものはデハイドリン、ヒートショック蛋白質、ジベレリン受容体の配列に類似していることが明らかになった。これらの遺伝子群の特徴としては環境への応答、ストレス応答および内因性の刺激に応答するものであった。


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