| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


シンポジウム S04-6

パナマ地峡の形成による潮間帯巻貝と寄生虫の多様化

三浦収(京都大・地球環境)

中米地域は海洋生物の多様性の宝庫である。この生物多様性を作り出す原動力の一つとなったのが、約三百万年前に出現したパナマ地峡である。太古の昔、太平洋と大西洋はパナマ周辺で繋がっており、海の生物は二つの海洋を自由に往来していた。ところが、パナマ地峡の形成により二つの海洋は分断され、そこに生息する生物は長い月日を経てやがて姉妹種へと変貌を遂げた。中米の西岸と東岸にはこのような姉妹種が数多く生息し、海洋生物の多様化機構の解明を目指す研究者を魅了し続けてきた。私は、パナマ地峡の形成により種分化した巻貝Cerithidea californica(太平洋)とC. pliculosa(大西洋)に寄生する二生吸虫を研究対象として、海洋の分断や姉妹種の形成が寄生虫の多様化にどのような影響を与えたのかを調査した。これら2種の巻貝に寄生している18種すべてのニ生吸虫を採集して分子系統樹を基に多様化の履歴を復元した。その結果、驚くべきことに18種と考えられていた二生吸虫は70以上もの隠蔽種を含んでいる可能性が示唆された。また、これらの寄生虫の約15%は宿主と同様に太平洋と大西洋に姉妹種を形成していたことが明らかとなった。これとは対照的に、約35%の寄生虫は中米陸橋をまたいでC. californicaC. pliculosaの両方の宿主に感染していた。このことは、パナマ地峡による海洋の分断やそれに伴う宿主の種分化は一部の寄生虫の拡散や感染の妨げにはならないことを示している。それぞれの寄生虫の生活史や宿主特異性そして拡散能力を考慮することで、どうして分布や多様化のパターンに違いが生じたのかを議論したい。


日本生態学会