| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


シンポジウム S11-1

二次的自然下に生育する絶滅危惧植物保全のためのユビキタスジェノタイピング

井鷺裕司・兼子伸吾・加藤慶子・水谷未耶(京都大)・増本育子・大竹邦暁(中電技術コンサルタント)

長期間にわたる人為影響によって成立している二次的自然環境には、多くの希少植物が生育している。これらの絶滅危惧種に関しては、全個体の生育場所、繁殖状況、遺伝子型を明らかにして、希少種の現状を正しく理解すると共に、遺伝的特徴に応じた適切な保全策を構築することが必要である。

スズカケソウは徳島県に生育する130個体すべてが同一の1クローンであり、日本国内の複数の植物園で栽培されている個体は、それとは別の単一クローンであることが判明した。更に、徳島県の小学校で栽培されているものの中には他に存在しない対立遺伝子を保有している個体があった。これらの知見をもとに、現存するすべてのクローンを対象にマイクロサテライト遺伝子座における遺伝子型を添付して、広島市植物公園に依頼して生育域外保全を試みている。日本にわずか3野生集団、約100個体が知られるトキワマンサクは、生育地内で離散して生育する樹木個体の多くが同一クローンであることが明らかになり、過去において人工的に増殖されたものに由来する可能性が高いことがわかった。広島県を中心に数個体群が現存するヤチシャジンは個体群ごとに保全努力に差があるだけでなく、クローン数、遺伝的特徴にも大きな差異が認められた。今後の効率的保全のためには遺伝情報を活用することが必須であるといえる。日本では静岡県にのみ知られるセンリゴマは、毎年数百オーダーの花茎が発達するにもかかわらず結実しない。センリゴマの遺伝的多様性は、きわめて低く、おそらく1クローンからなることがわかった。また、中国に現存する近縁種とは明確に識別できる分類群であることもわかった。

二次的自然下に生育する絶滅危惧植物を対象とした各種生物保全活動に対して、以上のような遺伝情報を活用することにより、活動の意義やパフォーマンスを著しく上げることが期待される。


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