| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


シンポジウム S12-1

①個体サイズの代謝べき乗則入門:なぜ3/4になるのか説明 ②代謝べき乗則理論の3つの弱点、そこで必要とされる3種類の実証データ

小山耕平(石川県立大・生物資源環境)

West, Brown, Enquist (1997)によるメタボリック・スケーリング理論(WBE理論)を解説する。WBEは、以下2つの経験則を説明する。(1)動植物の種間比較に於いて個体重をM、個体呼吸速度をRとしたとき、べき関数R = aM^bになる。但しM^bは「Mのb乗」を表す。(2)b = 3/4である。

生物のガス交換は、最小単位(葉)を中心に行われている。そこで「呼吸速度はガス交換表面積(葉面積)に比例する」という仮定を置く。球の半径をa倍に拡大すると、表面積はa^2倍、体積はa^3倍になる。かつては、呼吸速度は表面積に比例し、体重は体積に比例するからb=2/3(相似形拡大)と予測されてきた。しかし例外は多いがb=3/4の報告は多い。なぜか?

小木を相似形に拡大すれば、巨大な枝に巨大な葉を小数持つ大木が出来るが(b=2/3)、現実の大木の枝葉は、小さいままである。大木は若木と比して、体重の割に表面積(でこぼこ)が多いといえる (b>2/3)。一方、大木が葉(緑藻)を単に並べただけの物体ならば、全体の重さと呼吸量は比例する(b=1)。現実は、葉の集合は茎などの資源輸送ネットワークを形成し、呼吸に関与しない体重が増えていく(b<1)。そのネットワークのなす形は、全体は相似形に拡大し、かつ枝葉は最小の大きさを保つように細部が分裂していくものである。つまり生物体の拡大成長は、b=1(最小単位の寄せ集め)と、b=2/3(相似形拡大)の中間であるといえる。

このネットワークのなす形を、いくつかの強引な仮定を用いて導いた結果がb=3/4である。それらの仮定と、「呼吸及び光合成速度はガス交換表面積に比例する」という仮定は、生理学的根拠が不明である。データを集めて3/4になったところで、理論そのものを検証する研究は無く、まだ「これから」である。


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