| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


企画集会 T03-2

ショウジョウバエの暗所環境への適応のメカニズム

布施 直之(京都大・理)

生物の多様性は生物がそれぞれの環境に適応し進化した結果と考えられるが、その過程を実験的に検証することは困難である。京都大学動物学教室には56年間、1400世代に渡って暗闇で飼育されたショウジョウバエがいる。この希有な研究材料は「暗黒ショウジョウバエ」と名付けられた。暗黒ショウジョウバエではゲノムがどのように変化し、どのような形質に変化しているのか?その形質は暗闇に適応的なのか?環境、形質、ゲノムを結びつけることによって、環境適応の分子メカニズムにアプローチしたい。私達は、視覚や嗅覚などの感覚情報を統合した行動である求愛行動に注目した。暗黒バエでは求愛行動のパターンは正常であったが、交尾までの時間が顕著に短くなっていた。雄と雌の組み合わせを変えた実験から、暗黒バエの雄と雌の相互作用が求愛行動を強化することがわかった。この相互作用は暗所で働くので、フェロモンなどの化学シグナルや求愛ソングなどの聴覚シグナルが関与すると考えられる。次世代シークエンサーを用いて暗黒バエの全ゲノム配列を決定した。データベースのゲノム配列との比較から、約400,000の1塩基多型(SNP)が同定された。SNPの約10%が遺伝子コード領域にマップされ、約2%が非同義置換であった。フェロモン受容などに関与する嗅覚レセプターと味覚レセプターの遺伝子を調べたところ、123遺伝子中43遺伝子でアミノ酸置換が認められた。この頻度はゲノム全体の平均と比較して高いと考えられる。今後、これらの遺伝子と求愛行動との関連を遺伝学的解析から検証していく。さらに、光受容に関与するロドプシン遺伝子を調べたところ、7遺伝子中1遺伝子にナンセンス変異が見つかった。このロドプシン(Rh7)の機能は知られていない。Rh7の野生型ハエでの機能と、暗黒バエの形質との関連も調べている。


日本生態学会