| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


企画集会 T05-4

石垣に登ったイヌノフグリ:外来種の繁殖干渉による在来草本の形質分化・置換

高倉耕一(大阪市環科研)

繁殖干渉は種間において頻度依存的に作用するため、相互作用をする複数種の共存を極めて困難にすると考えられている。しかし、同時に繁殖干渉は配偶に関与する性的形質の分化を促すうることが理論的に予測され、性的形質の分化が生じたときには不可能であった共存が可能になるかもしれない。さらに言えば、性的形質に限らず種間の配偶機会を減少させるような形質の分化であれば、同様に繁殖干渉を及ぼしあう種同士の共存が可能になるだろう。つまり、繁殖干渉は性的形質だけでなくその他の形質の進化にも影響を及ぼす可能性がある。本講演で紹介するイヌノフグリにおけるハビタット分化は、そのような繁殖干渉がもたらした生態的形質における分化の一例かもしれない。

イヌノフグリはオオバコ科の在来草本で、環境省RDBで絶滅危惧II類(VU)にランクされているやや稀少な種である。一方で近縁な外来種オオイヌノフグリ(以下オオイヌ)はほぼ日本全土に分布する普通種である。人工授粉実験から、この種間には繁殖干渉が存在し、それはオオイヌからイヌノフグリへの一方的な影響であることが示された。このことから、イヌノフグリが現在稀少になっている要因として、外来種オオイヌによる繁殖干渉が重要であると考えられた。

その一方で、現在のイヌノフグリは石垣環境特異的に生育することが知られている。しかし、オオイヌの侵入から間もないころに編纂された牧野植物図鑑には、「畑や道端にはえる」とだけ記載され、石垣環境への言及は特にない。イヌノフグリのハビタット利用は、オオイヌによる繁殖干渉によって分化したのかもしれない。そこで、演者らは瀬戸内海の島嶼地域で調査を行い、オオイヌ未侵入の島では、石垣ではなく「畑や道端にはえる」普通な雑草であることを明らかにした。これらの事実は外来種による繁殖干渉が生態的形質の分化をもたらした可能性を示唆するものである。


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