| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


企画集会 T09-3

キスゲ属における送粉シンドロームに関する花形質の遺伝的基礎

*新田梢 (九大・理), 廣田峻 (九大・理), 安元暁子 (京大・生態研センター, チューリッヒ大・理),矢原徹一 (九大・理)

送粉シンドローム・擬態などの複数形質が協調してはたらくシステムでは、単一形質の変化は一般に適応度を低下させるので、「異なる複合適応形質間での進化的シフトが、どのようにして実現したか」という問題が残っている。我々は、対照的な送粉シンドロームが見られるキスゲ属2種を用いて、この問題に取り組んできた。ハマカンゾウは朝開花し、夕方に閉花する昼咲き種で、オレンジ色の無香の花をつけ、昼行性のアゲハチョウ類に送粉される。一方、キスゲは夕方に開花し、翌朝に閉花する夜咲き種で、レモン色の芳香性の花をつけ、夜行性のスズメガ類に送粉される。2種の開花時間・花色・花香は、異なる送粉者の活動時間・嗅覚・視覚に、協調的に適応した複合形質と考えられる。これらの複合形質の進化機構を探るために、F2雑種を育成し、開花時間・花色の分離を調べた。

F2雑種の開花時刻は朝と夕方に集中する二峰型分布、F2雑種の閉花時刻は夕方に集中する単峰型分布を示し、それぞれの比は1:1、3:1と有意差がなかった。よって、開花時刻・閉花時刻ともに、1個の主要遺伝子によって制御されていると考えられる。アントシアニン色素は、F2雑種では、無:微量:淡赤:濃赤=61:33:20:10に分離し、2個の主要遺伝子による制御が示唆された。

これらの結果から、開花時間・花色のいずれについても、主要遺伝子が関与していることが示唆された。したがって、対照的な送粉シンドロームの進化的シフトは、相加的な遺伝分散による漸進的な過程ではなく、主要遺伝子の変化による跳躍的な形質変化を通じて生じた可能性がある。


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