| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


企画集会 T16-2

外来哺乳類の根絶に向けての問題

山田文雄(森林総合研究所)

外来生物の侵入や定着の段階に応じて,導入を阻止する予防的措置,侵入されてしまった場合の初期対策,その後の定着個体群の防除対策が実施される.定着個体群に対する防除対策としては,実行可能性検証に基づく対策を検討し,効果的な個体数制御対策や根絶対策のための,予算的措置や期間設定,体制構築や手法開発を立て実施に移される.また,防除と平行して,捕獲の効果の検証として,標的外来生物のモニタリングや在来種や生態系の反応や回復のモニタリングをもとに順応的管理が求められる.「特定外来生物法」の防除に関する規定では,目標設定(完全排除、影響の封じ込め、影響の低減),計画的防除,モニタリングなどを計画的かつ順応的に実施すると掲げられている.しかし,防除事業を進める中では,さまざまな問題が生じている.根絶目標のもとに防除対策が実施されている奄美大島と沖縄島北部地域(やんばる)のマングース防除事業から問題点を抽出してみたい.現在,マングース防除事業では,防除の第一段階が達成され,生息数の低減化や分布域の縮小化が図られ,一部での地域的根絶も実現しつつあり,また,在来種の回復も認められ,現行手法が有効なことが明らかになってきた.しかし,根絶に向けて克服すべき問題は多い.例えば,標的外来生物の生物学的情報が乏しいために有効な戦略的対策が立てられない.また,在来種希少種の生物学的情報が少ないためにリスク評価ができず,また文化財保護法の指定種は混獲死亡が認められていないために,標的外来種の捕獲効率が低下する.特定外来生物種の取扱規制があるために,根絶のための調査研究に支障が生じる.一方で,九州本土(鹿児島市喜入)で30年前から定着したマングース個体群が最近発見されたが,同じ鹿児島県でこれが見過ごされており,普及啓発不足や情報収集体制不足,さらに初動対策が機能していないことを示している.


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