| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


企画集会 T16-7

外来昆虫類の防除対策の見直し

井上真紀(国立環境研究所)

侵略的外来生物(侵入生物)は、生物多様性の減少をもたらす要因のひとつとして認識されており、その経済的損失も甚大である。近年の世界経済のグローバル化と自由貿易の促進によって、物資や人の国際移送に伴う新たな生物の侵入や定着・分布拡大は増加し続けており、侵入生物の問題はますます深刻化している。食料自給率が40%以下に過ぎず、海外からの物資に大きく依存している日本には、意図的導入種に加え、さらに多くの非意図的侵入生物が持ち込まれている。さらに最近のトピックスとなっている環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)では、貿易における全品目の関税を原則として完全撤廃を目指しており、TPPによって自由貿易化はさらに加速することが予想され、それに伴って新たな侵入生物の導入の危険性が増している。こうした経済活動を背景に、農林水産省では、植物防疫法施行規則の改正により、従来のホワイトリスト方式から農業被害をもたらす可能性のある種を明示するブラックリスト方式への転換を検討している。植物防疫法における検疫が緩和された結果、外来昆虫の導入がより容易になることが予想されることから、外来生物法による検疫体制の構築・強化が特に重要となってくる。また、防疫薫蒸には、国際的に原則使用禁止とされている臭化メチルが例外的に禁止措置の対象から外されているが、ブラックリスト方式が採用されれば、指定された病害虫が発見された場合にのみ使用が制限される可能性がある。また、現在特定外来生物に指定されている外来昆虫のうち、アルゼンチンアリでは防除事業が各地に行われているが、外来生物法では防除における薬剤の使用規制はまだない。今後、外来昆虫においても薬剤による防除は必要不可欠であり、それには外来生物法において薬剤使用規制を視野に入れた改正が求められる。


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