| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


企画集会 T20-3

Stress gradient hypothesis (SGH) の成り立ちと今後の展開:SGHに未来はあるか!?

河井 崇(阿南高専・地域連携テクノセ)

'Stress gradient hypothesis (SGH)'とは,海洋生態学者M. Bertnessと植物生態学者R. Callawayにより1994年にTree誌上で提唱された「生物間相互作用と環境勾配との関係の規則性」に関する仮説である.SGHよると,「生息環境の厳しさの度合い(ストレスの強さ)により,生物間の関係そのもの,もしくは群集におけるその相対的重要性は規則的に変化し,ストレスが弱い環境においては競争関係が卓越する,もしくはその重要性が高くなるが,ストレスが強くなるにつれて中立関係,さらにはfacilitation(扶助関係)の形成頻度が増加,もしくはそれらの重要性が高くなる」と推測されている.

本講演では,SGHに関する議論のこれまでの展開を演者らの実証結果を交えて紹介するとともに,SGHのさらなる概念的発展とその実証,及び保全・再生への応用を進めるための課題を検討したい.

1.SGHは植物・固着動物以外の生物の関係にあてはまるのか?

SGHはそもそも,陸上・湿地における植物や沿岸域のフジツボ・イガイ類等,固着生物間の関係の変動性の検証結果から導かれたものであり,特に近年の概念的発展は植物間の関係に特化している.従って,現状のSGHの概念が移動性動物や異なる栄養段階の生物間においてもあてはまるのか検証するとともに,新たな概念の構築も検討すべきだと考えられる.

2.SGHは群集モデルとなりうるか?

これまでSGHの実証研究の多くは,ある特定の種間関係の環境勾配に沿った変動の規則性を検証しており,この仮説が元来含意する群集における種間関係の形成頻度や重要性の変動を評価したものは少ない.しかし,群集レベルでの実証には大規模な調査・実験設定が必要となり,理論研究の発展が望まれる.

3.保全再生への活用は有効だが慎重に

Facilitationは生物の移入を促進しうるため,慎重な導入が必要.


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