| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) A2-20 (Oral presentation)

京都大学北部構内・北白川追分町遺跡における縄文時代晩期以降の植生変遷

*高原 光(京都府大・生命環境),佐々木尚子(地球研),橋本茉美(京都府大・生命環境),冨井 眞(京都大・文化財総合研究セ)

過去の人々の生活を考える上で,周辺の植生景観の復元は重要な課題である。京都市左京区の北白川追分町遺跡は,近畿地方有数の縄文時代遺跡として知られており,花粉,種実,樹種同定,植物珪酸体などの分析成果が蓄積されてきた。今回は,2009年度の発掘調査で出現した縄文時代晩期から明治時代の堆積物について花粉分析を実施し,植物相や農耕活動について検討した。なお,本報告の内容は2012年3月発行の京都大学構内遺跡調査研究年報に掲載される。花粉分析の結果,縄文時代晩期に相当する泥炭質層では,ヒノキ科型やアカガシ亜属が優占し,これにコナラ亜属やクリ属/シイ属,スギをともなう花粉組成が得られた。この層ではカヤの葉も認められ,温帯針葉樹を交える照葉樹林であったと考えられる。この層準の同一時間面と考えられる23試料を分析したところ,クリ属/シイ属やガマ属,イネ科などの花粉出現率にばらつきがみられた。これらは給源植物の局地的な空間分布を示している可能性がある。弥生時代に相当する層準には,花粉が含まれていなかった。中世の層準では,イネ科花粉の出現率が高かった。イネ属花粉の可能性がある粒径の大きいイネ科花粉も検出された。アブラナ科花粉やソバ属花粉が検出されたほか,アカザ科,キク科タンポポ亜科,ヨモギ属などの陽性草本花粉が検出され,耕地化をうかがわせる。木本花粉ではマツ属やコナラ亜属の出現率が増加しており,周辺の二次林化が示された。近世~幕末の層準では,アブラナ科花粉がさらに増加し,最大で花粉・胞子総数の80%近くを占めた。また,マツ属花粉も著しく増加し,木本花粉の30%以上を占める。近世の京都周辺山地が,アカマツが疎らに生える禿げ山に近い景観であったとする古絵図研究の成果を裏付けた。


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