| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) B2-23 (Oral presentation)

チベット高山草原における標高差を利用した移植実験による植生の変化

*廣瀬明香(筑波大・生物),下野綾子(筑波大・生命環境),李英年(中国科学院),白石拓也(筑波大院・環境),飯村康夫(岐阜大・流圏セ),唐艶鴻(国環研・生物),廣田充(筑波大・生命環境)

青海チベット高原は過去数十年間に、気温の上昇が観測され、今後も平均的な上昇幅より高い気温の上昇が予測されている。しかし、この気温上昇に対する高山植物の応答についてはよく分かっていない。本研究では将来の気温上昇が、この地域の高山植物群落に与える影響を理解するために、高標高(3400、3600、3800m)から低標高(3200m)への植生と表層土壌(ミニ生態系)の移植を行い、植生の変化を調査した。移植は2007年5月上旬に完了し、各標高から1m×1m×0.4mのミニ生態系を3つずつ移植し、移植後1年と4年の夏季にポイントフレーム法を用いて出現種名とその頻度を調べた。結果、両者の植生は全標高で大きく変化していた。〈種の豊富さ〉各標高から移植した全てのミニ生態系で出現種数は増加し、3800mで約2倍と最も増加の幅が大きかった。これは、同地域で行われたオープントップチャンバーを用いた先行研究の、気温上昇により出現種数が減少するという結果に反するものであった。〈出現頻度〉減少した種がいた一方で、多くの種で出現頻度は増加していた。出現頻度の変化量の積算値(純植生変化量)は全標高で正の値を示し、高標高ほどその値が大きかった。さらに、出現頻度が増加した種のみでみると積算値は高標高ほど大きくなり、減少した種のみでは高標高ほど小さくなった。〈種の構成比〉丈の高い種(イネ科、カヤツリグサ科)の全個体数に占める割合は、3400mでは増加していたが、3600mと3800mでは減少していた。一方、匍匐性植物が占める割合は3400mで減少し、3600mと3800mで増加する結果となった。


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