| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) C1-06 (Oral presentation)

琵琶湖西岸域におけるコブシ個体群の衰退状況

*高橋和規(森林総研関西支)

モクレン科の高木種コブシは、北海道から九州にかけて湿性の谷筋緩斜面に自然分布を有するが、西日本においては、個体群の分布域が乏しい、個体密度が低いといった個体群の衰退を示唆する情報が植物図鑑等に記載されている。

本研究では、滋賀県の琵琶湖西岸域を対象地としてコブシ個体群の分布状況を把握し、種子繁殖と稚幼樹の更新状況を調査した。具体的な手法としては、開花木を探して繁殖個体の位置を明らかにし、繁殖個体の開花、結実、実生の更新状況を明らかにするとともに、個体周辺の立地環境、林床植生、共存する木本種群の構成について調査を行った。

2011年の春季は全国的な開花好況年であったが、琵琶湖西岸域でコブシの自然開花木が確認されたのは、大津市北部の和邇周辺の小流沿いと高島市今津町を流れる石田川の河畔周辺域の2箇所のみであった。

石田川の河畔周辺域の中で河口周辺のコブシ分布下部区域は、市街地域と重なり、小中径個体が孤立散在しているが、扇状地中央部の分布中部域には、田畑沿いの流路にコブシを含む残存河畔林が見られる。確認した開花個体は全個体が結実し、DBH45.6cmの最大直径個体を筆頭とする計61本の開花個体のうち、最多結実個体には花数4310花、果実数1970果の繁殖量が認められた。開花、結実数、および花、果実重量と個体サイズから算出した繁殖努力(RE)値によると、小中径開花個体において繁殖投資が大きく、林内に生育する自然個体群の繁殖状況と異なる傾向が見受けられた。

旺盛な種子繁殖に反して、開花個体周辺における実生更新は極めて低調であり、結実個体61本に関して、周囲半径8m円内に見出された幹長2m未満の実生数は計46実生に過ぎなかった。個体の周囲では、立地の市街地化に加えて、モウソウチクや帰化雑草等の旺盛な繁茂等によって実生更新に有利な落葉性の湿性林床環境が失われつつあり、こうした状況が実生更新を阻害する要因と見なされた。


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