| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) F1-06 (Oral presentation)

生物の広域分布パターンを分布の類似度指標に基づいて類型化する

竹中明夫(国立環境研究所)

生物の分布パターンには、現在の環境条件を反映した部分、過去の歴史を反映した部分、はっきりした要因では説明できない部分などが重なり合っているものと考えられる。たとえば千種の生物の分布パターンを考えたとき、これらがそれぞれまったく独立な環境依存性と歴史を持っていると考えるのではなく、いくつかの類型的なパターンがあって、個々の種の分布は、どれかの類型にその種の特殊事情が重なったものと見ることもできるだろう。こうした階層的な捉え方が可能であれば、限られた数の観察データしかない種についても他種の情報を参考にした分布推定モデルを作成することもできるだろうし、個々の種の分布パターンの背景にあるプロセス・メカニズムの解析にも資するだろう。

こうした観点から生物の分布パターンを解析するには、分布パターンの類型化が出発点となる。分布パターンの2種間での相異の程度をなんらかの指標で定量的に表現できれば、これを使って種間距離行列を作成し、クラスター分析などによる客観的なグルーピングが可能になる。本研究では、種の全分布地点間の平均距離と、種間で求めた平均距離との比率を分布パターンの相違度の指標とする解析を試みた。この指標は、密度には依存しないので出現頻度が違う種でも同列に扱える、個々の分布地点が完全に重なっていなくとも近所に分布している2種では相違は小さいと評価される、平均位置は変わらなくとも分布の広がりが違えば相違が大きいと評価されるといった特徴がある。日本のシダ植物のうちごく希少なものを除く300種あまりの在・不在データにこの手法の適用を試みたところ、たとえば5つのグループに分けると、本州中部限定タイプ(8種)、九州南端限定タイプ(3種)、西日本太平洋側集中タイプ(71種)、西日本中心タイプ(174種)と東日本中心タイプ(50種)が識別できた。


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