| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) F2-19 (Oral presentation)

アジアの異なる気候帯の森林において落葉分解に関わる菌類の多様性と機能

大園享司(京大・生態研)

菌類は森林土壌における植物リターの分解において中心的な役割を担う微生物である。本研究では、アジアの異なる気候帯に位置する森林において、落葉の分解に関与する菌類の多様性と分解機能を比較した。亜高山帯(年平均気温2℃)、冷温帯(同10-11℃)、暖温帯(同15℃)、亜熱帯(同22℃)、および熱帯林(同25℃)の5気候帯における針葉樹・広葉樹の計7樹種の落葉を材料として行われた、一連の研究データをまとめて解析した。これらの研究では、標準的な分離培養法(洗浄法および表面殺菌法)を用いて、共通の手順で、野外で採取した落葉上の菌類群集を調べた。また純粋培養条件下において、分離菌株を用いた滅菌落葉への接種試験により菌類種の分解力の評価を行った。菌類の種多様性、群集構造、および優占的に出現する菌類の属組成についてみると、洗浄法では気候帯にともなうパターンは認められなかった一方で、表面殺菌法では寒冷な気候帯で多様度指数が低く、優占種の頻度が相対的に高い傾向が認められた。各樹種の落葉から得られた8〜37種の菌類の菌株を用いて接種実験を行った結果では、それぞれの菌類群集においてもっとも分解力のある菌株の分解力が、寒冷な気候帯より温暖な気候帯で、また針葉樹よりも広葉樹で高い傾向が認められた。各樹種の落葉から高頻度で分離された菌類種について、純粋培養条件下で調べた分解力を気候帯間および樹種間で比較しても、これと同様の傾向がみられた。特に冷温帯・亜熱帯・熱帯の広葉樹の落葉では、分解力の高い菌株のなかにリグニン分解活性を有する担子菌類および子嚢菌類が含まれていた。従来の研究では、寒冷な気候帯より温暖な気候帯で落葉の分解速度が速い傾向が認められており、その気候帯間での分解速度の差は気温やリグニン濃度の違いといった気候条件や落葉の質の面から説明されてきた。本研究の結果は、これらの要因に加えて、落葉に定着する菌類の群集組成や機能面での違いも分解速度に影響しうることを示唆している。


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