| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) I1-07 (Oral presentation)

八郎潟周辺に残された池沼における保全上重要な沈水植物とヒシとの関係

*村中孝司(ノースアジア大・教養), 尾崎保夫(秋田県立大・生物資源), 高田順(秋田自然史研究会)

八郎湖の水質汚濁の進行に伴う農業・水産用水としての利用価値の低下が大きな社会問題となっている。八郎湖の水質改善を図るため、水生植物を中心とした植生再生の検討を進めているが、八郎湖に残存する健全な植生は極めて乏しく、これら水生植物再生のための具体的な手法を早急に確立することが求められている。近年、八郎潟周辺に残存する池沼群には、リュウノヒゲモ、イバラモ、ツツイトモなどが生育する旧八郎潟の残存植生が確認された。本研究では、周辺水域のうち隣り合う2つの池沼の水生植物相と植生を把握することを目的とした。

2つの池沼(細沼と大池)には植生に明瞭な違いがあり、ヒシ、タヌキモ、リュウノヒゲモ、ツツイトモ、イバラモ、マツモ、アオウキクサの7種の水生植物が確認された細沼では、5月から6月にかけて、ヒシが増加して水面を覆ったが、6月下旬には減少した。それと前後して、リュウノヒゲモ、ツツイトモ、イバラモ、マツモの被度が増加した。リュウノヒゲモ、ツツイトモ、イバラモの被度は8月下旬には急速に低下したが、マツモの被度は7月から急激に増加した。一方、大池では、1年を通してほぼヒシ、タヌキモが優占し、イバラモがごくわずかに見られるのみであった。

水面を覆うヒシの被度%と沈水植物各種の被度%の相関を検討したところ、マツモは有意な正の相関が認められたが、イバラモ、タヌキモ、リュウノヒゲモでは負の相関が認められた。また、溶存酸素量、電気伝導度、濁度、水温、pHでは、2つの池沼で際だった差はなかった。

沈水植物の出現にはヒシのような大型の浮葉植物の被度の変化が大きく影響していることが推測される。ヒシの被度の増減にはジュンサイハムシによる食害が関わっており、食害による葉の損失の程度に、その年・場所の植生の発達状況を決定づける1つの要因になっていることが考えられる。


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