| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) I2-19 (Oral presentation)

潜在的な採餌環境を予測する〜佐渡島のトキの順応的管理にむけて

*遠藤千尋(新潟大・超域),蛯原香理(八千代エンジニヤリング),大石麻美(新潟大・超域),永田尚志(新潟大・超域),渡辺竜五(佐渡市役所),関島恒夫(新潟大・自然)

農耕地を生息地とする生物の保全策を考えるときに、農業活動によってつくりだされる時間的・空間的な環境の異質性を考慮する必要がある。トキNipponia nipponは水田地帯を主な採餌環境としていたが、日本の野生個体群は1981年に絶滅した。2008年より、佐渡島において、野生復帰をめざし再導入が行われている。佐渡には水田地帯が広く分布しており、トキにとって潜在的な採餌環境を提供しうるが、彼らの採餌環境として、どのような環境の特性が必要なのかが、わかっていない。本研究の目的は、採餌環境に必要な特性を明らかにし、それらを用いて、佐渡島における好適採餌環境の分布を予測することである。採餌環境の特性を抽出するために、トキの利用した水田と未利用の水田の景観要因と局所要因を表すパラメータを測定し、統計モデル解析を行った。農業活動による水田の環境変化(水深、植物密度など)とトキの水田の利用状況を考慮し、4つの季節に分け、それぞれの季節ごとに解析を行った。モデル選択された環境特性を表すパラメータを用いて、佐渡島の水田地帯に外挿し、トキに好適な採餌環境の分布を予測した。トキは、農繁期には、舗装道路や建物を避ける傾向にあり、森林に囲まれた水田や休耕田を利用する傾向にあった。農閑期には、比較的オープンな水田を利用する傾向があった。農繁期には、トキの利用可能な水田は限定され、農閑期には比較的広範囲に分布した。トキの利用可能な採餌環境は、景観要因に制限されることと、利用可能な採餌環境の分布が季節的に異なっていることを考慮し、重点的な保全エリアの指定や、採餌環境整備の取り組みを行うなど、トキの個体群維持にとって望ましい保全策を考えていく必要がある。


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