| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) J1-07 (Oral presentation)

遺伝子解析を用いたヒグマの背擦り行動の研究

*小泉沙奈恵,伊藤哲治(日本大学・院・生物資源),佐藤喜和(日本大学・生物資源・森林動物),浦田剛(浦幌ヒグマ調査会)

ヒグマUrsus arctosは「背擦り」と呼ばれる木に身体を擦りつける行動をすることが知られているが、この行動の目的については諸説あり、十分に解明されていない。そこで本研究では、北海道十勝郡浦幌町、釧路市音別町、白糠郡白糠町に位置する十勝総合振興局森林室管内の道有林(面積43,139ha)において、ヒグマの背擦り行動の頻度の季節変化や性別による違いを検討するため、背擦り木に残された体毛から抽出したゲノムを用いて、マイクロサテライトマーカー6座位を用いた個体識別およびアメロゲニン遺伝子の解析による性判別を行った。 1998年から2008年までに発見された背擦り木より、2004~2008年の間に採集された体毛242サンプルを解析した。個体識別により、同一年内で複数回背擦りを行っていた個体や数年間にわたり複数回背擦りを行っていた個体が確認できた。さらに、個体識別と性判別により特定できた個体の背擦りを行った推定時期から背擦り行動の季節別の頻度を確認した。その結果、背擦り行動は6月にピークを迎え7月に低下、8月に再び増加するという傾向が確認された。雌雄別に見ると、オスは回数と頭数ともに5~6月に最も増加し、7月に低下、8月には5~6月より低いものの、再び増加傾向にあることが確認された。一方、メスは5~8月に背擦りを行っていたが、回数と頭数ともにオスより少なかった。本研究により、ヒグマの繁殖期は5~7月であること、繁殖期中にオスの背擦り行動がピークを迎えたことから、繁殖期と背擦り行動には関わりがあることが示唆された。


日本生態学会