| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) J2-15 (Oral presentation)

野生のチョウの雄における交尾歴推定法

*佐々木那由太(筑波大・院・生命環境),小長谷達郎(筑波大・生命環境),渡辺 守(筑波大・院・生命環境),Ronald Rutowski(Arizona State University)

一般に、交尾とは、雄にとって、外的にも内的にも痕跡が残らないので、交尾経験を調べるには、その雄を朝から晩まで連続して追い続けねばならない。したがって、雄の交尾成功に関わる形質が選択を受けているかどうかを野外調査のみで明らかにするのは困難である。チョウ類において、これまで、雄は交尾時に体重の数%~十数%の物質を雌に注入しており、次の交尾で同様の量を注入できるまで回復するのに、数日を要することが明らかにされてきた。すなわち、交尾直後の雄の内部生殖器の状態は、未交尾雄と異なっているはずである。そこで、アオジャコウアゲハを用いて異なる交尾歴の雄を解剖し、内部生殖器の諸形質との関係を調べた。室内飼育し、羽化させた雄(未交尾)の射精管の重量は、羽化直後から6日齢まで、ほとんど変わらなかった。このような雄を未交尾雌と交尾させ、交尾終了直後に解剖したところ、射精管の重量は未交尾雄の3割程度に減少していたが、その減少率や減少量は日齢と関係していなかった。羽化翌日に交尾させた雄の射精管の重量は、交尾後徐々に回復し、2日目以降に未交尾雄と有意差が無くなった。この結果は、雄の射精管の重量で交尾経験の有無を区別できるのは交尾後2日未満の個体のみであることを示している。野外で捕獲した雄を解剖したところ、60個体中10個体の射精管は交尾から2日以内に解剖した雄と同程度の重量であり、交尾して間もない個体と考えられた。交尾直後と判定されたこのような個体では、性選択が働いているといわれる後翅の表側の色は緑に近く、輝きが強かった。したがって、アオジャコウアゲハにおいては、野外においても雄の翅の色と交尾成功に関係のある可能性が高い。


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