| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) K1-05 (Oral presentation)

単純性、複雑性、二元性-とあるミジンコ個体群の遺伝構造-

*熊谷仁志(東北大・理),石田聖(東北大・国際高等研機構),牧野渡,占部城太郎(東北大・生命)

湖沼の代表的な浮遊生物であるミジンコ属(Daphnia)は、通常は単為生殖で繁殖し、冬期は有性生殖で造られる休眠卵で越冬する。しかし、恒久的な湖沼では浮遊個体として越冬する個体もいる。休眠卵で越冬する場合に比べると、浮遊越冬は春先に早く繁殖を開始することが出来、またgenetic slippageが起こらないため高い適応度が維持されやすいと考えられる。もし、そのような個体が当該年の個体群創始者となるなら、ミジンコ個体群は浮遊越冬するクローンで占められるようになり、休眠卵の適応的価値が低下するため、遺伝的多様性は次第に低下すると予想される。しかし、ミジンコ個体群の遺伝的多様性が経年的にどのように変化するのか、よくわかっていない。そこで、2008年から3年間、山形県畑谷大沼(面積19ha、最大水深8m)のDaphnia dentifera-galeata complex個体群を対象にクローンの多様性を調べた。クローンの同定にはマイクロサテライト6座位とmt12SrDNA遺伝子のRFLPを用いた 調査の結果、毎年約70クローンが同定され、組成は年によって異なるが、クローンの多様性に経年的な変化は見られなかった。季節的にみると、クローンの多様性は毎年春に高く夏から秋にかけて低下した。3年間で同定された延べ220クローンのうち3クローンは3年連続して出現し、浮遊個体として越冬するクローン系統であることがわかった。さらに、その1つは毎年夏から冬にかけて個体群の中で卓越する系統であった。このように、畑谷大沼のミジンコ個体群は、休眠卵に頼ることなく浮遊個体として越冬し数年にわたって存続する少数のクローン系統と、休眠卵により越冬し数カ月しか存続しない多数のクローン系統が混在していることがわかった。個体群の遺伝的多様性が低下することなく、越冬様式が異なるクローン系統が共存している機構について議論する。


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