| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) K1-06 (Oral presentation)

サンゴ幼生の分散範囲は想像されていたより狭い?

*酒井一彦(琉球大・熱生研), 中村雅子(OIST), 熊谷直樹(琉球大・熱生研), 御手洗哲司(OIST)

サンゴは地球および地域規模の人為的環境変化によって、世界的に減少傾向にある。しかし、サンゴがほとんど消えた後に、サンゴが回復している場所もある。サンゴが激減した場所でサンゴが回復したのは、成熟したサンゴが存在する場所で生産されたサンゴ幼生が分散し、着生・生存に成功したからである。このため、サンゴ幼生の親からの分散距離に関する情報が、保全生物学的に不可欠となる。さらに、サンゴ幼生の親からの分散距離は、人為的環境変化がさらに大きくなる今後において、同種サンゴの遺伝的分化により強く影響すると予想される。このため、サンゴ幼生の親からの分散距離は、進化生態学的および保全生物学的に、解明されるべき課題である。

私たちは平成23年度から、沖縄本島西岸、慶良間諸島、および久米島を対象地域として、成熟サンゴの分布と、新規加入したサンゴの調査を開始した。主に対象としたサンゴは、沖縄を含む太平洋のサンゴ礁で、本来種数および現存量が共に多いミドリイシ属である。ミドリイシ属ではほとんどの種が、海水中に卵と精子を放出する放卵放精型であり、体内受精する幼生保育型のサンゴよりも、幼生の親からの分散距離が長い。

かつては、ミドリイシ属サンゴの幼生は、親から数100㎞分散するのではないかと想定されていた。しかし本研究の途中経過から、外洋に囲まれ、かつサンゴ礁地形が複雑でない島群を除き、ミドリイシ属サンゴ幼生の分散距離は、通常はそれよりも短いことが示唆された。過去のデータから、10年程度の時間スケールでは、幼生が長距離分散する可能性も示唆されているが、本研究の途中経過は、今後地域的にミドリイシ属サンゴが遺伝的に分化する可能性があることも意味すると思われる。本発表では、これらデータを示し、今後の温暖化の進行のなかで、サンゴ群集と個体群にとって、これらがどのような意味を持ちうるかを考察する。


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