| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) M1-07 (Oral presentation)

エンレイソウ科における花器官形成遺伝子群の発現解析:単子葉植物におけるがく片の平行進化と独立した遺伝的発生機構

*久保田渉誠,菅野明(東北大・院・生命科学)

被子植物における花は同心円状に広がる層(Whorl)で構成され、外側からW1(がく片)、W2(花弁)、W3(雄蕊)、W4(雌蕊)に分けられる。花器官形成の遺伝子制御はABCモデルで説明され、Aクラスに分類される花器官形成遺伝子が単独で発現するWhorlにはがく片が、AとBが発現すると花弁が、BとCが発現すると雄蕊が、Cが単独で発現すると雌蕊が形成される。これに加え、全ての花器官の形成に必須とされるEクラス遺伝子の存在も知られている。ABCモデルはシロイヌナズナなど、がく片を持つ双子葉植物を中心に発展してきたが、ユリなど単子葉植物の多くはW1でも花弁状の器官(外花被片)が形成される。一方、ツユクサやサギソウなどがく片を持つ単子葉植物も存在することから、複数の分類群で独立にがく片が進化したと考えられている。これら単子葉植物における花器官形成遺伝子群の発現解析から、花弁状外花被片を持つ植物(チューリップ、アガパンサス)のW1ではBクラス遺伝子が発現しているのに対し、がく片を持つ植物(ツユクサ、サギソウ)のW1では共通してDEFICIENS-like遺伝子というBクラス遺伝子の発現が消失していることが示されている。

では単子葉植物におけるがく片は、偶然(または必然)にも共通する遺伝子の発現変化から獲得されたのだろうか?本研究は上記の疑問を明らかにすべく、明瞭ながく片を示す単子葉植物、エンレイソウ科のオオバナノエンレイソウとクルマバツクバネソウを対象に花器官形成遺伝子群の単離と発現解析を行った。その結果、両種のがく片(W1)ではBクラス遺伝子が発現している一方で、一般的に単子葉の全Whorlで発現しているとされるEクラス遺伝子がW1では確認されなかった。これらの結果から、エンレイソウ科ではツユクサやサギソウとは異なる遺伝的発生機構からがく片が形成されており、単子葉植物におけるがく片の平行進化は独立な遺伝的メカニズムで生じた可能性が示唆された。


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