| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-306J (Poster presentation)

ヒヌマイトトンボのミチゲーションプロジェクト.1.経緯と経過.

*渡辺 守(筑波大・院・生命環境),東 敬義(三重県立図書館),木村京子(三重県環境学習情報センター)

1998年、三重県伊勢市において、下水道浄化センターを設置する事業の環境影響評価の調査中、絶滅危惧種ヒヌマイトトンボが発見された。生息地はドブ状の水路に成立した小さなヨシ群落(500㎡弱)で、ここだけを保護しても、周囲の水田や湿地はすべて浄化センターの施設(≒コンクリート)となり、この個体群は絶滅すると考えられた。この水路は、500m程上流の小さな池を源とし、民家の生活排水を集めて海へ流し出していた。ヨシ群落は海につながる水路の出口に位置し、汽水環境に成立していたといえる(塩分10~15‰)。したがって、浄化センター稼動後は、小池は埋め立てられ、生活排水の流入が止まるので、水分不足のために陸地化する可能性が高かった。「保護」という名目で放置すれば、ヨシの枯死体などが堆積し、やはり陸地化してしまう。そこで、この地域個体群を半永久的に存続させるため、発見した生息地の維持・管理を行ないながら、その隣りに新たな生息地(2000㎡強)を創り出すミチゲーションが計画されたのである。2003年1月にヨシの根茎を移植して人工的に汽水環境のヨシ群落を作り出して以来9年間、発見された生息地と人工の生息地に対し、様々な維持・管理を行なってきた。その結果、前者では、成虫個体数は発見時の2倍以上に増加して安定している。後者では、人工生息地建設直後に、発見された生息地から成虫が移入し、定着した。生息個体数は年々増加して、4年目(2006年)に、発見された生息地と同等の個体群密度に達した。2007年以降の個体群密度はやや変動したが、発見された生息地と有意な違いはなく、本プロジェクトは成功と見なされている。そこで、本ポスターを含めた1から5の発表において、成虫や幼虫の個体数の推定技術の開発や、推定個体数の変動、好適な生息環境(ヨシ群落の構造と無機的環境)の維持管理とその結果、行政の対応について紹介する。


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