| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-333J (Poster presentation)

絶滅危惧種ハリママムシグサの保全遺伝学

*深田ちひろ(神戸大)・兼子伸吾・横川昌史・井鷺裕司(京都大)・小林禧樹(兵庫県植物誌)・丑丸敦史(神戸大)

人間活動によって生息・生育地が減少している絶滅危惧種の保全策を考える上で、土地改変が残存集団の集団構造にどのような影響を与えるのかを明らかにすることは重要である。

本研究では、ハリママムシグサ Arisaema minus の繁殖や近親交配に対して土地改変が与える影響を評価した。ハリママムシグサは、個体サイズの増加に伴い雄から雌に性転換する雌雄異株植物であり、環境省レッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類に指定されている。2010年6~8月に、繁殖個体数のカウント、性別の判定、地際直径の測定を行った。同時にDNA解析用の葉を採取し、SSRマーカーを用いて遺伝子型を決定した。これらのデータに基づき一般化線形モデルを用いて、繁殖・近親交配に関するパラメータと周囲の景観要素の相関を解析した。

野外調査の結果、集団間でばらつきはあるものの、すべての集団で明らかに雄の方が多かった。一般化線形モデルを用いた解析の結果、繁殖個体数は半径100mの森林率と正の相関が、半径100mの人工地率と負の相関があった。また、近交係数と半径100mの森林率に負の相関が、半径100mの人工地率と正の相関があった。これらの結果は、土地改変によって小集団化した集団では繁殖個体数が減少し、近親交配の頻度が増加する可能性を示唆している。また、近交係数と集団内の雌比・個体サイズそれぞれに負の相関が見られた。このことから、近親交配が進んだ集団では近交弱勢の影響によって十分に成長できない個体が多く、その結果、雌個体が少ない可能性が示唆された。集団内の雌比の減少は、集団の種子繁殖を減少させるため、集団の存続性に影響を与えうると考えられる。


日本生態学会