| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-335J (Poster presentation)

大学農場予定地におけるトラマルハナバチの訪花について

*野呂恵子(明大・農),倉本 宣(明大・農)

神奈川県川崎市麻生区黒川は都市域にありながら里山環境を有し,農業が盛んに営まれている地域である。利用がなくなった雑木林は大木化し,農地のすぐ脇にあった生物多様性の高い低茎草原も大幅に減少した。

明治大学は2012年4月開設をめざし,この黒川に農場を建設した。農場には小さな谷戸が隣接しており,ここの地主が慣習で耕作地脇の草原や斜面の管理を続けてきた。繰り返し刈られる草原や斜面には四季を通じて豊かな植生が存在する。

大学農場を丘陵地に作るためには大規模な地形改変が必要であり,この小さな草原もほとんどが埋もれる計画だったが,施工者にノハナショウブの生育を告げると移植による保全ではなく造成のラインを下げるように計画を変更した。これにより,チダケサシ,ワレモコウ,ツリガネニンジン,ツルボなどの草原生の種とともに草原ごと保全された。

ノハナショウブにはトラマルハナバチが重要なポリネーターである。過去の調査では,本種は川崎市内では広大な緑地である生田緑地周辺でしか生息が確認されなかった(齊藤・倉本2004)が,2008年晩秋に黒川でリンドウへの訪花を確認しており,当該地での生息の現状を知るため開花期に合わせて調査をおこなった。その結果,夏期の花への訪花は確認できたが,晩秋の花への訪花は確認できなかった。

本種の生息には春から秋まで咲きつぐ花と巣穴が必要不可欠である。この草原や斜面の管理頻度は隣接地主の高齢化によって従来より減る方向にあり,遷移が進み餌資源となる植生が衰退することになれば,今後の本種の生息にも影響を及ぼすであろう。


日本生態学会