| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-029J (Poster presentation)

モンゴル北向きカラマツ林斜面における樹液流による蒸散の年々変動

飯島慈裕(海洋研究開発機構), Y. Jambaljav(モンゴル地理学研究所)

モンゴル北部の北向き斜面には、カラマツ(Larix siberica)を優占種とする森林が広がり、その地下には永久凍土が存在する。本発表では、2004年に開始したカラマツ林斜面での樹液流と各種水文気象の観測結果から、植物生長・フェノロジー・蒸散量の季節変化に影響する凍土-水文気象条件の対応関係を報告する。

5~9月の降水量は194mm(2007年)~255 mm(2005年)と、年によって大きく異なる。蒸散との関係では、6月~7月上旬の降水量が7月の土壌水分量を規定し、その年の蒸散量の最大値(7月中旬~8月上旬での値)と良い対応関係が認められた。特に、降水が多かった2004年は夏季の蒸散量のピークが最も大きくなった。

また、カラマツの開葉は消雪とその後の土壌融解との関係が深い。2004、2008年は4月上旬の消雪直後から地温上昇と土壌水分量の増加が早く推移し、カラマツの開葉時期は5月中旬から6月上旬にかけて進行した。一方、2006年は消雪後に低温時期が続き土壌融解が遅れ、開葉時期は5月下旬から6月中旬に遅れていた。これは2006年が春の降水量や土壌水分量が多かった割に蒸散量が抑えられた一因と考えられる。以上から、この森林では、降水の時期に加えて、消雪時期と凍土融解(活動層発達)時期の早遅が組み合わさることで、植物生長と蒸散量の季節変化と変動量が影響を受けていることが示された。

森林内の土壌は、凍土面が不透水層となって活動層内に土壌水分を保つ効果があり、降水量が少ない地域でありながらも森林の成立する環境が維持されている。また、森林の生長や蒸散活動には、消雪以降の活動層厚の変化、降水の浸透による土壌水分貯留量の変化など、凍土環境下での水文気候環境が大きな役割を果たしている。


日本生態学会