| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-031J (Poster presentation)

ミヤコザサを繰り返し地上部刈り取りしたときの応答

*齋藤智之,壁谷大介,長谷川元洋(森林総研),岡本透(森林総研・木曽),清野達之(筑波大)

ササは日本の森林の林床に広く繁茂するため、樹木の更新の重大な阻害要因となっている。ササの密度管理や現存量の制御は重要な課題である。しかし更新補助技術としてササを制御することは非常に難しいのが現実である。ササ属は全てクローナル植物であり、長年かけて地下構造が発達した大きなバイオマスを地下部に貯蔵する。また暗い林床であっても横方向の資源の移動、すなわち生理的統合の存在によって、生育を可能にしていると考えられる。本研究では、ミヤコザサを用いて地上部を繰り返し刈り取った場合に、個体全体としてどのように応答するか、どこまで生き続けられるか明らかにすることを目的とした。

実験には筑波大学八ヶ岳演習林内の林床に存するミヤコザサ群落を用いた。2008年に最初の地上部刈払いを開始して、今年で4年目となる。毎年一回初夏に地上部を刈払い、ミヤコザサの地上部および地下部、個体数の変化について一定面積内(30×30m)で観察を続けた。さらに2×5m のトレンチ処理区では、個体サイズを制御し、地下茎による横方向の物質の転流を抑制した場合の個体への変化についても影響評価した。

ミヤコザサはササ属でも地下構造へのバイオマスの配分割合が高い種とされている。地上部は背丈が低く、ほとんどの稈が一年生のみで構成される。ゆえに地上部の再生能力は短期間で押さえられるが、地下部の貯蔵資源量の減少速度は遅いと考えられた。予測のとおり、地上部の再生能力は一定面積の刈払い区、トレンチ処理区の両方で開始後すぐに現れた。個体数は刈払い区で30m四方の調査区全体におよぶ大きな個体が2個体、小規模サイズの個体が12個体見られた。平均では1.7個体と少なめであった。2010年の夏は温暖で、地上稈の再生量が多かった。このことはミヤコザサが押さえるのも早いが、回復力も早いことを示しおり、地上部刈払いだけで完全に死滅させるのは難しい可能性がある。


日本生態学会