| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-235J (Poster presentation)

北海道の山地・低地湖沼におけるミジンコ属(Daphnia)個体群の近過去復元

*大槻朝,石田聖(東北大・生命),加三千宣,槻木玲美(愛媛大・上級センター),牧野渡,占部城太郎(東北大・生命)

過去の生物群集にはその当時の環境変動と関連した個体群動態や遺伝子組成の変化が存在し、その特徴は現在でも湖沼の堆積物中に残されている生物遺骸に刻印されていると考えられる。湖沼生物群集のキーストン種であるミジンコ属(Daphnia)は、生息環境の変化に応じて卵鞘でつつまれた休眠卵を生産する。この卵鞘は卵が孵化しても湖底堆積物中に長く保存される。本研究では、この残された卵鞘を手がかりに、北海道の山地(ニセコ大沼・羅臼湖)および低地湖沼(渡島大沼・阿寒湖)における過去のミジンコ個体群の変化を復元することで湖沼環境変遷の解明を試みた。

調査にあたっては、いずれの湖沼でも重力式コアサンプラーを用い最深部で湖底堆積物を採取した。卵鞘は堆積物から深度別に抽出し計数した。ニセコ大沼では1900年以前から減少していた個体数が1950年代から現在までは増加傾向にあった。増加が始まった時期には堆積速度の増加も起きており、約50年前に環境変化のあったことが示唆された。阿寒湖は個体数の少ない状態が1950年頃から続いていたが最近約10年間で急速に増加しており、近年、生息環境に大きな変化のあったことがわかった。また渡島大沼では全体的に卵鞘数は少ないものの個体数が大きく増加する時期が数十年前にあったことが確認された。一方、羅臼湖は過去100年以上に渡って個体数の大きな変動はみられず、湖沼環境は比較的安定した状態が現在まで続いているといえる。

個体群密度の変遷に加え、過去個体群の遺伝的構成も推定するため、採取した休眠卵や卵鞘を用いた遺伝子解析を試みている。現代と過去の個体群でDNA抽出およびミトコンドリアDNA上の遺伝子配列解析を行っており、その結果も一部報告する予定である。


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