| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-246J (Poster presentation)

餌資源制限がニホンジカの歯の摩滅と体サイズに与える影響

*三ツ矢綾子(農工大・農),高橋裕史(森林総研),上野真由美(北海道環境研),伊吾田宏正,吉田剛司(酪農大・環境),梶光一(農工大・農)

シカの歯は硬い植物物質を破砕し摩滅に耐える必要があるが、餌植物が硬く粗いものに変化したり、経口摂取する土壌粒子の量が増加したりすることで歯の摩滅が増加するとの指摘がある。このため、歯の摩滅は食物の質や量を反映するとされている。また、シカを含む反芻動物では、効果的な微生物消化を行うためには植物物質を十分に咀嚼する必要があるので、咀嚼はエネルギー摂取にとって重要であると考えられ、摩滅により歯の機能が喪失すると消化効率が減少し、個体の健康状態や適応度に対して負に影響すると思われる。このように、歯の摩滅はシカの生息地の食物資源や健康状態を判断する基準になると考えられる。しかし、食物資源の状態が異なる個体群間で有蹄類の歯の摩滅を比較し、食物資源や生活史特性との関連を考察した研究は行われているが、ひとつの個体群の食物資源が異なるいくつかの時期で比較したものは殆どない。本研究では、個体数の増減に伴っておきた食物資源の変化により、シカの歯の摩滅がどのように変化したかを調べることを目的とした。また、哺乳類では個体群の高密度化により体サイズの小型化が起こることが知られているため、下顎長の変化も調べ、食物の変化と体サイズの関係についても考察した。

研究には北海道南西部にある洞爺湖内の中島のエゾシカ個体群に由来する下顎骨を使用した。中島のエゾシカ個体群は1957年の導入以降、個体数増加と2度の個体群崩壊を経験しており、それに伴ってシカの利用する餌資源も変化してきた。本研究では個体群崩壊の起こった年を目安に全体を6つのphaseに区分し、年齢による第一後臼歯の歯冠高の変化(摩滅速度)と下顎長の成長曲線のパラメーターをphase間で比較した。結果、摩滅速度は2回目の個体数増加期の前半で最大だった。一方、下顎長は経年的に減少していた。


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