| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-273J (Poster presentation)

ニホンザル2群の群落利用パターン 〜隣接する自然群と加害群の比較〜

*海老原寛 (麻布大) , 高槻成紀 (麻布大)

近年、サル(ニホンザル)による農業被害が生じている。その原因として拡大造林に伴う生息地の変化や農地の増加があり、その後、人工林の衰退や農村の過疎化が農業被害を加速させたことがある。農村の過疎化は今後さらに進むと思われ、人里を利用するサルがさらに増えていくと予想される。こうした状況は一種の実験とみることができ、サルが環境の変化に対して、どのように生活を変化させたかを知る好機といえる。本研究では、神奈川県丹沢東部の農地を利用しない群れ(自然群)と農地を利用する群れ(加害群)の群落利用を比較した。ラジオテレメトリ法と直接観察により群れの位置を把握し、GIS上で環境省の植生図を用いて解析を行った。調査は2011年6月~11月におこなった。自然群は、初夏に針葉樹林の利用が多く広葉樹林の利用が少なかったが、季節が進むにつれてこれが逆転した。加害群においては、初夏に草地の利用が多く農地の利用が少なかったが、季節が進むにつれて逆転した。このことは、群落利用の季節変化の要因が2群で異なり、おそらく食物供給の違いにより、自然群では森林が、加害群では農地などがキーとなっていることを示唆する。2群の群落利用を比較すると、どの季節においても加害群の方が農地の利用が多かった。また、初夏や晩夏には加害群の方が広葉樹林の利用が多かった。これは、農地に栄養価の高い作物が集中的にあるためと考えられる。また、農地と広葉樹林が隣接していることが多いため、農地を利用することが結果として広葉樹林の利用を高めたためと考えられる。これらの結果から、過疎化によってサルが農地に侵入しやすくなったことが、サルの群落利用に大きな影響を及ぼしていることが示された。


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