| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-282J (Poster presentation)

温度ロガーを用いたコアジサシの抱卵温度調節行動の測定

*奴賀俊光(LTP), 弦間友梨, 川久保美鈴(東京都市大・環境情報, LTP), 小堀洋美(東京都市大・環境情報), 北村亘(電中研・生物環境, LTP)

コアジサシSterna albifronsはチドリ目カモメ科の鳥類で、日本には繁殖のために渡来する夏鳥である。海岸の砂浜や、河川敷、造成地などの裸地に集団営巣するが、工事やレジャー等の人為的影響による営巣環境の悪化から、環境省レッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類に指定されている。巣の形状は単純で、巣材などは使わず地面に浅い窪みをつくり、直接地面に産卵するため、卵は巣外気温(=地表面温度)の影響を受けやすい。野外調査時に、高温で変性したと思われる放棄卵を見かけることもある。気温の高い夏期には、コアジサシは卵を冷やす行動をとる事が知られているが、この行動についての詳細な研究は行われていない。そこで本研究では、気温と冷却行動の関係を調べることを目的とした。このために、小型温度ロガーをコアジサシの巣の内外に設置し、抱卵による温度変化を記録すると同時に、目視またはビデオカメラで抱卵行動を観察し、抱卵温度調節行動を調べた。調査は2010年と2011年の5月〜8月、東京都大田区の人工営巣地と、千葉県や茨城県の海岸に形成された自然営巣地で行った。巣内の温度変化と抱卵行動を解析した結果、コアジサシは巣外気温が約34℃を境に、抱卵温度調節の方向性を変化させていることがわかった。巣外気温が低い場合には、一般的な抱卵行動により卵を温めるが、巣外気温が高い場合には、親鳥は卵の上に立って影を作ったり、腹部を濡らした状態で抱卵したりするなどして、卵が高温にならないようにする行動をとった。調査を行った営巣地では、繁殖期間中の最高気温が50℃以上になるため、卵の変性を防ぐための冷却行動は、地上営巣するコアジサシの繁殖成功に関わる重要な行動であることが示唆された。


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