| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-350J (Poster presentation)

外来植物エゾノギシギシとその近縁在来種ノダイオウとの雑種形成―形態と分布の比較―

*羽生将昭(信大院・工),高橋耕一(信州大・理)

大規模輸送手段が増えた近年、人間活動とともに外来種が侵入する機会が増えてきており、それらが在来種との間に雑種を形成している事例が報告されている。タデ科ギシギシ属の外来植物であるエゾノギシギシRumex obtusifolius L.と、近縁な在来種であるノダイオウRumex longifolius DC.の間には雑種が形成されうる。両種とも北半球に広く分布しており、エゾノギシギシは乾燥地、ノダイオウは湿地に分布している。上高地ではこの2種がどちらも存在しており、その雑種と思われる個体が見られた。この研究ではこの2種の雑種形を明らかにするために、雑種の特徴を形態的、生態的な面から調査した。エゾノギシギシは花被に尖った鋸歯があり、瘤状の突起を生じる。茎や葉に赤みを帯び、葉の裏に短い毛があるという特徴を持つ。ノダイオウではこれらの特徴は観察されない。この研究ではこれら2種とその雑種については、花被の形態を主な判別要因とした。形態の点で雑種は、茎高、葉の大きさ、および花被の形態において2種の中間的な形質を示していた。これらが分布する環境としては、ノダイオウと雑種はほとんどが湿地や水中に分布していたのに対し、エゾノギシギシは乾燥地や草地にも広く分布していた。雑種の稔性は花粉(2.0~4.2%)、種子(0.5~6.6%)ともに低かった。雑種は茎高と葉の大きさに関して中間的な形質を示していたこと、そして雑種は常にエゾノギシギシとノダイオウの近くに分布していたことから、観察された雑種のほとんどはF1雑種であると考えられた。今回は形態形質で判別できる雑種について調査したが、水際近くに分布するエゾノギシギシが比較的茎高が大きいことに加えて、同じ水際からの距離に生育するノダイオウに匹敵する大きさを持つ個体が存在するため、ノダイオウの遺伝子がエゾノギシギシに流入している可能性も示唆される。そのため今後は、分子レベルでの比較をしていくことが必要と思われる。


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