| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-353J (Poster presentation)

特定外来生物モクズガニ属の見分け方:分類と生態の最新の知見

小林哲(佐賀大学農学部)

特定外来生物であるモクズガニEriocheir属各種の分類の現状,生態,特にチュウゴクモクズガニ(俗称上海ガニ)と在来種の違いをレビューする.モクズガニ類にはモクズガニEriocheir japonicaの他にチュウゴクモクズガニ E. sinensis,ヘプエンシス E. hepuensis,オガサワラモクズガニ E. ogasawaraensis,ミナミモクズガニ Platyeriocheir formosa,ヒメモクズガニ Neoeriocheir leptognathaが知られている.最後の2種はNg et al. (1999)により別属が提唱されたが,分類学者間で意見が分かれることがある.2種を除く場合はEriocheir sensu stricto (狭義のEriocheir属),すべてを含む場合はEriocheir sensu lato (広義のEriocheir属)と但し書きする.近年の研究では狭義のモクズガニ属を系統的に南方集団と北方集団の異なるクレードに分離している.沖縄のモクズガニは香港台湾のモクズガニやヘプエンシスとともに南方集団,日本本土のモクズガニはチュウゴクモクズガニとともに北方集団側にあり,チュウゴクモクズガニと日本本土のモクズガニは別のクレードを形成する.モクズガニは側系統からなる隠蔽種の集団であり,ヘプエンシスと中国南部のモクズガニは系統的には同種とした方がよい.祖先形のモクズガニから寒冷適応した北方集団がさらに大陸の特殊な環境(干満差が大きく海水の滞留時間の長い,エスチュアリーを河口に形成するゆるやかな大河)に適応し,突起を増し歩脚が長く進化したのがチュウゴクモクズガニである.日本本土は環境が異なり生物多様性も高いため定着は困難であるものの,モクズガニとの交雑可能性は高いため,法による規制は不可欠である.


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