| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-087J (Poster presentation)

絶滅危惧水生植物マルバオモダカにおける二種類の繁殖体の特性と役割

*熊澤辰徳, 角野康郎(神戸大院・理)

マルバオモダカ Caldesia parnassifolia Parl.(オモダカ科)は、種子の他に散布型の無性繁殖体(殖芽)をもつ水生植物である。殖芽は、花茎上の花をつける部位に形成される。本研究では、マルバオモダカにおける2種類の繁殖体生産のフェノロジー、生育形の違いによる繁殖体形成の特徴、種子と殖芽それぞれの発芽特性を、圃場栽培実験と室内実験を通して検討した。

圃場実験では、水深や光量の異なる環境で個体を栽培し、繁殖体生産のフェノロジーを記録すると共に、繁殖体生産量や生長量を比較した。フェノロジーは生育形によって大きく変化せず、8月初旬から開花した。そして9月初旬からは殖芽が形成されるようになった。水温が25℃以下になる頃に殖芽の形成が見られ始めたため、花茎に花または殖芽を形成する決定要因の一つが温度であることが示唆された。個体サイズは浅い水深の個体(抽水形)より深い水深の個体(浮葉形)の方が大型化する傾向があり、種子の数も多くなった。殖芽の生産数は生育形によって差はなかったが、浅い水深の個体ではより小さい殖芽を生産した。弱光条件では有性生殖に対する資源分配が減少したものの、無性繁殖への資源分配量はあまり減少しなかった。

発芽実験は、種子と殖芽について、光条件・酸素条件・温度条件・低温処理期間を変えて行った。その結果、種子は変温・嫌気・明条件で発芽が促進されることが明らかとなった。さらに長期間(1年以上)低温処理を行うと、暗条件での発芽能を獲得した。一方殖芽は、低温処理を行うと暗条件や好気条件を含むほとんどの環境で発芽した。しかし長期間保存すると半数以上が死滅した。これらの結果から、種子と殖芽は生態的な役割が異なり、種子はシードバンクとなって集団の長期的存続に寄与し、一方、通常の個体群の維持は主に殖芽が担っていると考察した。


日本生態学会