| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-305J (Poster presentation)

日本海沿岸の照葉樹林における陸ガニによる落葉分解

*山岸明日翔, 柳井清治(石川県立大)

石川県加賀市大聖寺川河口に位置する「鹿島の森」は,タブノキ(Machilus thunbergii),シロダモ(Neolitsea sericea)などの照葉樹にケヤキ(Zelkova serrata)が混交する原生林として知られ,国の天然記念物,加賀能登国定公園の一部に指定されている.この森にはアカテガニを主体とする陸ガニが多く生息し,固有の生態系が形成されている.本研究は,石川県に残された貴重な海岸天然林である「鹿島の森」から生産される落葉が陸カニ類にどのように利用されるか明らかにすることを目的とする.

調査はリタートラップを用いた落葉量調査,陸ガニの現存量調査,リターバッグを用いた落葉の野外分解実験,室内における陸カニ類の飼育実験を行い,陸ガニによる落葉の分解過程と分解量,そして樹種的な嗜好性を評価した.落葉は5~6月にかけて多く落下し,その内1~2割程度生葉が含まれていた.陸ガニ類は5月下旬から巣穴から出て摂食活動を始め,アカテガニが優占しており,次いでクロベンケイガニが多く観察されたが,クロベンケイガニがより湿潤環境を好む傾向がみられた.次にタブノキの枯葉,生葉そしてケヤキの生葉を目合いの異なるメッシュバッグ(1cm,0.3mm,オープン)に入れ林床に設置したところ,オープン処理のタブノキ生葉とケヤキ生葉は50日以内で摂食され尽くした.しかし,タブノキ枯葉は100日経過しても減少がわずかであった.その他のメッシュ処理では葉重は緩やかに減少するが,1cmと0.3mmメッシュ処理間の違いは見られなかった.アカテガニは林内に生育するアオキに登り生葉を摂食しているのが実際に観察された.また室内実験において同じ3種類の餌を与えたところ,ケヤキの生葉がタブノキ生葉より好まれ,さらにタブノキでも生葉の方が枯葉より好まれる結果となった.以上の結果から,春から夏にかけて落下する生葉は陸ガニ類にとって重要な餌となっている可能性が示された.


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