| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-307J (Poster presentation)

ボルネオ熱帯降雨林生態系維持メカニズムとしての土壌リンの地球化学的シンクに拮抗する生物学的シンク

*池田 千紘(京大・農), 北山 兼弘(京大・農)

土壌風化が進行した熱帯低地降雨林においてリンが欠乏し、純一次生産や有機物分解を制限することが知られている。鉱物起源であるリンは土壌風化に伴いその総量と生物可給態の割合が減少する。しかしそうした土壌上においても高い純一次生産速度が維持されているので、これはリン欠乏に対する土壌微生物も含んだ様々な適応の結果と考えられる。森林生態系における可給態リンは、生物に利用され循環する経路と、土壌鉱物に強く吸着され、その後長い時間を経て無効な吸蔵態となる経路の2つに分かれる。見かけの吸着量は、土壌鉱物の潜在的吸着能(地球化学的シンク)とそれに拮抗する土壌微生物の吸収能(生物学的シンク)のバランスで決定される。本研究では地質の違いにより地球化学的シンクの異なるサイトを比較して、リン酸吸着が強いほどそれに拮抗する微生物のリン酸吸収能が高まる、という仮説を検証した。

調査地はボルネオ島サバ州における土壌の母岩の異なる3つの熱帯低地林とし(蛇紋岩、第三紀堆積岩、第四紀火山岩)、表層5cmの土壌を採集した。先行研究より、全リン量と全リンに対する吸蔵態リンの割合は、蛇紋岩<堆積岩<火山岩の順で増加した。微生物活性を抑えた低温条件下で湿土にリン酸カリウムを過剰に加えリン酸を固定させた後、Bray I溶液を加えて振とうし、それで回収できない無機態リン画分を吸着量と定義した。また、25℃の微生物活性下において同様に湿土にリン酸カリウム溶液を加えたものをクロロホルム燻蒸し、測定した微生物バイオマスの変化から微生物のリン酸吸収を推定した。その結果、土壌のリン酸吸着率が高いサイトにおいて、微生物吸収も高いという拮抗した傾向が見出された。リン酸吸着率が高い土壌で吸蔵態リンの割合が低いという現象には、この高い微生物の吸収能が関係している可能性がある。


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