| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-312J (Poster presentation)

サケ死体跡にキノコが生える?-森林内に運ばれたホッチャレの分解過程-

*長坂 有,長坂晶子(北海道林試)

近年,森-川-海の生態学的つながりに関心が高まる中で,森林の物質生産が河川や河口域の生物に及ぼす影響を評価する研究が進む一方,サケ科魚類など遡河性魚類が海域から上流域にもたらす栄養循環の重要性が指摘され始めている。北米ではサケが河畔周辺の様々な生物に及ぼす影響について研究が進んでいるが,日本など冷温帯の落葉広葉樹林における報告はほとんどない。そこで本研究では,サケ遡上河川に見られるヒグマやキツネなどの動物によるホッチャレ(サケ死体)の林内持ち込みを想定して,森林内にホッチャレを設置し,その分解消失過程とそれに関わる生物,ならびに分解にともなう無機態窒素などの土壌への栄養塩添加状況を調べた。実験は遡上時期の異なる系群を考慮して,設置時期を9月中旬,12月上旬の2回にわけて実施(各25尾)したところ,9月設置ではウジ(ハエ幼虫)による摂食により1週間以内にほとんどのサケは骨と皮一部のみとなったが,12月設置では直後から積雪下となり,冬期間はキツネに一部が摂食され,融雪後にシデムシ等の昆虫により消費された。いずれの場合もハネカクシやスズメバチなど,ウジの捕食者も出現した。ホッチャレ直下の土壌からは高濃度のアンモニア態窒素が検出され,9月設置では分解直後から1ヶ月,12月設置では積雪下の3月から融雪後の6月まで高濃度が持続した。また,12月設置では翌年9月に分解跡地の土壌からアンモニア菌の1種と考えられるワカフサタケ属(Hebeloma spp.)が多数発生し,サケ遡上にともなう物質循環は陸上動植物のみならず菌類にまで波及することが確認された。


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