| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-326J (Poster presentation)

小規模博物館の展示作成時におけるデータ収集と教材化‐ブナの葉面積地理的クラインの例‐

*小林誠,伊藤千恵,永野昌博(十日町市立里山科学館キョロロ)

博物館展示や教育普及活動において、生物の“形”の地理的変異の視覚的インパクトは、一般の方の興味関心を引き付け、その生物学的意義の理解を助ける有効な材料の一つであろう。日本の冷温帯の代表的樹種ブナは、分布域内において明瞭な葉面積の地理的クラインを有している。当館の位置する十日町市ではブナ林が重要な観光資源の一つであり、住民や観光客におけるブナに関する知的需要が高い。当館でブナの企画展を開催するにあたり、ブナの分布する全県を網羅する45都道府県48ヶ所からブナの葉のサンプルを収集し、葉面積の地理的クラインに関する形質を測定し、展示や教材化を行った。

「データ収集」には、全国の森林研究者、博物館、自然関連団体、森林管理署などの「ブナを知る人」ネットワークを活用しサンプルを収集した。収集にあたり複数個体から供給された落葉も含め、データの信頼性を高める工夫を行った。その後、葉面積や葉形質と地理的要因との関係の解析を行った。また、「教材化」では、45都道府県のサンプルを地図上に展開した展示物の作成にとどまらず、館の書籍やパンフレットでの紹介、インストラクター時のアイテム、広報誌での紹介、講演時の使用、マスメディアへのデータ提供など、様々なシーンでの幅広い活用を行った。

展示作成や教材化を通した教育普及的役割は、博物館の規模を問わず重要な使命であるが、そのために必要な網羅的なサンプル収集・解析を行うにあたり、小規模館における予算や人員規模、作業量的制約は否めない部分である。小規模館でデータの量や質を高めながら効率的に「データ収集」を行い、得られたデータを「教材化」し多方面で活用させていくには、小規模館ならではの地域ニーズの的確な把握や、小規模館であっても学芸スタッフの専門性や研究ネットワークを十分に活用する“体制”や“工夫”などが必要である。


日本生態学会