| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


シンポジウム S03-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

再生可能エネルギーの現状と課題

飯田哲也(環境エネルギー政策研究所)

3・11に発生した東京電力福島第一原発事故は、世界史に残る地球規模の最悪事故であり、未だに事故の収束は見通しが立っておらず、放射能汚染は広がる一方である。これまで「安全・安心・クリーン」という言葉で原子力を容認してきた私たちは、事故処理や放射能汚染といった「将来世代への負債」となる重たい課題に向き合わなければならない。

大前提として、持続可能性を社会全体の目標に据えるならば、資源が有限かつ偏在し、深刻な環境汚染を免れない原子力と化石燃料は適合しない。唯一の持続可能なエネルギーは、本質的にエネルギーの効率化と再生可能エネルギーに限られる。太陽エネルギーだけで人類のエネルギー消費量の一万倍もの膨大なエネルギーフローがあり、資源の偏在もない。

そうした中で、近年、風力発電や太陽光発電など新しい技術を利用した再生可能エネルギーが急速に普及しつつある。これは「第四の革命」と称され、今後のエネルギー転換のみならず、産業育成や地域活性化などで中心的な役割を担うことが期待されている。これは再生可能エネルギー普及を主導する政治に裏付けられた、「固定価格買取制度」など新しい普及政策の成果である。こうした政策の導入に遅れた日本でも、3・11を契機に同じ制度が成立したため、今後の急速な普及が期待される。

ただし、再生可能エネルギーもさまざまな環境影響や社会影響を避けられない。森林エネルギーの非効率な利用は森林破壊を招き、大規模なダム開発を伴う水力発電も深刻な河川環境破壊を引き起こす。今後、急速に広がってゆく風力発電など分散型エネルギーによる、さまざまな環境影響や社会影響を、予防的に最小化しつつ社会的な合意形成をしてゆくための新しいルール作りが待ったなしといえる。


日本生態学会