| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


シンポジウム S03-5 (Lecture in Symposium/Workshop)

原発が海洋生態系におよぼす影響——放射能汚染の問題を中心に

佐藤正典(鹿児島大・理)

原子力発電所(原発)は、事故時だけでなく、日常運転によっても、海の生態系に重大な影響をおよぼしていると思われる。このうち、原発による日常的な放射性物質の放出の問題(それに伴う生物の低線量被曝の問題)については、生態学者も一般社会も、これまであまりにも無警戒だった。

たとえば、原発から液体廃棄物として海に放出されている放射性物質の中で、最大の放射能汚染をもたらしているものは、トリチウム(半減期12.3年、β崩壊核種)である。14基もの原発が集中している日本海の若狭湾沿岸(福井県)、日本で唯一の内海に面した原発が存在する瀬戸内海、および原発の千倍ものトリチウムを放出する再処理工場(試運転再開が検討されている)が存在する青森県六ヶ所村の周辺海域では、この汚染問題が特に懸念される。トリチウムは、水素の同位体なので、水の分子に紛れ込むだけでなく、脂質、アミノ酸、核酸などのあらゆる生体物質に入り込み、生物体内に蓄積され、長時間にわたって内部被曝を引き起こす可能性がある。

これらの問題は、福島での原発事故によって海に流出した大量の放射性物質の今後の影響と同様に、私たちが注意すべき問題である。


日本生態学会